近年、中国のチベット高地などに生息する冬虫夏草(Ophiocodyceps sinensis)が減少しており、その原因は過剰採取によるものだと言われている。しかし必ずしもそれだけが原因ではない、地球温暖化もその要因のひとつだ、と米スタンフォード大学の研究者らがこのほど米科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences、PNAS)」(電子版)に論文を発表した(『気候変動と過剰採取の影響でヒマラヤ周辺の冬虫夏草が減少』)。
冬虫夏草は昔から薬草・漢方として珍重されてきたが、特に近年、その人気が高まり価格も高騰してきた。そのため冬虫夏草の採取に拍車がかかり、乱採取の結果、その数が減少してきたという。
ところが今回の論文で研究者らは「あながち過剰採取だけがヒマラヤ地域における冬虫夏草の減少の原因ではない、気候変動の影響もある」と結論付けた。
この地域の冬虫夏草は、中国のチベット高原をはじめ3000m級の高山地帯に生息するコウモリガの幼虫に寄生した虫草菌(キノコ)で、その生育には冬季気温が氷点下になるが永久凍土ではない、という条件が必要だ。
ところが論文によると「1979年から2013年にかけ、生育地の広範囲で冬季の気温上昇が見られ、冬虫夏草が減少した。特に冬季の気温が3.5~4℃も上昇したブータンでは著しく減少した」と指摘している。
もともと「冬虫夏草」は中国のチベット高原などの高山地帯が原産とされているが、現在ではその仲間は世界中で約500種類、なかでも日本は約400種類が確認されている。日本は「冬虫夏草」の宝庫でもあるのだ。
ヒマラヤ地域の冬虫夏草が減少するなか、今後は日本産冬虫夏草に世界の注目が集まることになるだろう。
論文はこちら『気候変動と過剰採取の影響でヒマラヤ周辺の冬虫夏草が減少』(The demise of caterpillar fungus in the Himalayan region due to climate change and overharvesting)
写真は日本産冬虫夏草「オオセミタケ」2018年7月採取